『女囚と共に』(久松静児、1956)

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要約すれば「女子刑務所を舞台に、女囚の更生に情熱を傾ける保安課長と所長、そして様々な女囚たちの生態を描く豪華キャストの女性映画」ということになるのだが、公開当時のキャッチコピーが「11大女優競演」(田中絹代原節子久我美子香川京子岡田茉莉子木暮実千代浪花千栄子、安西郷子、淡路恵子杉葉子中北千枝子)という、現在では絶対ありえない、超豪華女子刑務所映画の逸品。*1
所長が田中絹代、保安課長が原節子、牢名主(?)が浪花千栄子という豪華きわまりない女子刑務所(セットが完璧!)を舞台に、いずれも男に裏切られて犯罪に走り、恋人や子供と生き別れた女囚たちの苦悩を描いた内容は、「11大女優競演」という華やかなキャッチコピーとはうらはらの、やりきれない印象を残す。
ほぼ全編米軍MP風の制服制帽姿の保安課長・原節子と、同じ制服姿でありながら、将校然とした原とは対照的な、叩き上げの軍曹といった感じでいい味を出している菅井きんとのコンビ、反抗的な囚人・久我美子、その久我と原との仲を嫉妬する同性愛者・淡路恵子といった絡みが、どこか「ナチス女性刑務所もの」を連想させなくもないが、男性社会の歪みによって犯罪者に追いやられた女性を同情的に描き、女性受刑者の社会復帰を真摯に訴えた、文部省その他推薦多数の堂々たる大作。
反抗的な女囚・久我美子原節子との対立が、いちおうドラマの中心軸とはなっているのだが、なにしろ11大女優競演なので、さまざまなハプニングが起こるどころか、養父殺し・香川京子のボーイフレンド役を若き日の美青年・天津敏が演じていたり、仮釈放囚・淡路恵子原節子が刃物で斬られ、血まみれになって呻き続けるという信じがたい場面も見られるので、これを見逃したら日本の「女性映画」を云々する資格を失いかねない、と言っても過言ではないだろう(受刑者演芸会の出し物の「五木の子守唄」のメロディーの流れるなか、自身も子供を死なせている久我美子が中庭で女囚の赤ん坊たちを日向ぼっこさせる場面は、子守姿で踊る舞台と涙ぐむ客席の女囚たちと中庭に広がって寝転ぶ赤ん坊たちをカットバックしてとりわけ感動的)。
また、中北千枝子の伝説的な生命保険のCM(「ニッセイのおばちゃん」)の意外な起源を、この映画で確かめることができる。*2
久松静児作品で豪華女優競演といえば、田中絹代高峰秀子岡田茉莉子らが出演した『渡り鳥いつ帰る』(1955)も見逃せない。*3
永井荷風原作で、鳩の街遊郭を舞台にしたこの文芸作品は、成瀬巳喜男『流れる』(1956)の1年前の公開で、スタッフ・キャストに舞台設定と大いに共通するものがある。むしろ『流れる』のような、成瀬には珍しいオールスターキャスト文芸大作は、前年の『渡り鳥いつ帰る』の成功を受けての企画だったのではないだろうか。
ただし久松静児本人は成瀬巳喜男を尊敬し、成瀬の撮影現場をわざわざ見学しては、その演出術を熱心に学んでいったそうである。
そうした成瀬演出の最初で最良の学習成果は『安宅家の人々』(1952)に見ることができるだろう。*4
世評高い『警察日記』も「駅前シリーズ」も悪くないが、久松静児の本領は、女優を中心とした成瀬的「女性映画」にあると思う。

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