『親不孝通り』(1958)


http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2014-7-8/kaisetsu_7.html
http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2014calendar7-8.pdf
 
賭けボーリングだけしか能のない不良大学生・川口浩が、ファッションデザイナーの姉・桂木洋子を中絶させて棄てた冷血漢のエリートサラリーマン・船越英二に復讐するため、その妹の女子大生・野添ひとみを強引に誘惑する。
最初は川口に怒りと反発を示すだけだった野添が、やがて兄・船越の制止をふりきってまで川口と本気で愛し合うようになり、復讐サスペンスのはずだったドラマが、結局は二組のきょうだいが揃って結ばれる結婚コメディへと反転していく作劇術は見事というしかない。
ただコメディといいきるには、池野成の音楽は怖すぎるし、川口と野添がレイプすれすれで結ばれる夜の山のススキ野の場面での、ススキをかきわけて前進する、まるでホラー映画のようなカメラワーク(別な日の朝、ふたりが再びススキ野を訪れる場面でもう1度同じカメラワークが繰り返される)は、この映画からロマンチックな甘さを奪っている。
タイトルとは違って、この映画には本当の「親不孝者」は出てこない(不幸にする親が最初から不在だ)。
激情から姉不幸な復讐に走る姉思いの弟と、激情から兄不幸な恋愛に走る(元々は兄思いの)妹がここにはいるだけで、最後は不幸な恋愛・出産に走る妹の「増村的激情」が、二組の親のないきょうだいを揃って幸福な(?)結婚へと導くことになる。*1
恋愛に法律上の責任はないと断言し、深い理由もなく恋人・桂木洋子を中絶させ結婚を拒否する、冷血漢で妹思いのエリートサラリーマンというニヒルで偽悪的なキャラクターを演じる船越英二の強烈な演技は、一瞬ジョージ・サンダースを連想させるものがある。
野添ひとみの濡れた瞳の眼力*2川口浩の投げやりな不器用さは相変わらずさまになっているが、その投げやりな川口浩に味のある説教をしてハッピーエンドに一役を買う呑み屋の親爺を、大映の名バイプレイヤー潮万太郎が好演している。
松竹からレンタル出演の桂木洋子は、恋人に突然捨てられ中絶してものん気な姉さん(?)という役どころで、松竹作品の時とは違ったいい味を出していると思う。

*1:桂木洋子川口浩姉弟は父親と死別し、母親は郷里在住、船越英二野添ひとみの兄妹は母親と死別し、父親は愛人の元に入り浸りで別居。両者は画面上ではともに「親のないきょうだい」として描かれている。

*2:1959年のカンヌ映画祭で、当時15歳だったジャン=ピエール・レオを虜にした魔性の瞳。http://tipsimages.it/Photo/ShowImage_Editorial_Popup.asp?laid=2&ofid=1&styp=keyw&logi=and&or_h=h&or_v=v&or_s=s&or_p=p&tp_f=f&tp_i=i&tp_c=c&ps_1=1&ps_2=2&ps_3=3&ps_g=g&pgsz=50&cl_c=c&cl_bw=bw&chrm=1&chrf=1&chcfa=start&chcil=start&chcfs=start&chcar=start&chefs=start&chene=start&chesp=start&cheen=start&ched=ed&latest=false&IMID=1150153&SCTP=edit&SCSA=