2011年映画ベスト3+21
『ザ・ウォード 監禁病棟』(ジョン・カーペンター)
『魔法少女を忘れない』(堀禎一)
『トゥー・ラバーズ』(ジェームズ・グレイ、DVD)
2011年度のベストテンは、上位3作品を選出して、まずはベスト3を明記。
『ザ・ウォード』の詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/jennjenn/20111009/p1。
『魔法少女を忘れない』は2011年の日本映画のベスト。森田涼花と高橋龍輝には新人賞、橋本彩子には撮影賞、そして堀禎一にはジャン=リュック・ロメール賞を。
『トゥー・ラバーズ』のせいで、今年はDVDスルーも解禁。アパートの隣どうしの男女の二股どうしの悲恋を描いて、ジェームズ・グレイはフランソワ・トリュフォーの遺伝子を受け継いでいる。*1
以下に記するのは、今年印象に残った「特出し21本」(21本の愛妾?)。21という数字には、何の意味もありません。*2
『悪の華』(クロード・シャブロル)
『ボクシング・ジム』(フレデリック・ワイズマン)
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(マルコ・ベロッキオ)
『SUPER8/スーパーエイト』(J.J.エイブラムス)
『ザ・タウン』(ベン・アフレック)
『アベックパンチ』(古澤健)
『ヒア・アフター』(クリント・イーストウッド)
『ザ・ファイター』(デビッド・O・ラッセル)
『孤独な惑星』(筒井武文)
『ラブ・アゲイン』(グレン・フィカーラ/ジョン・レクラ)
『プッチーニの愛人』(パオロ・ベンヴェヌーティ)
『無言歌』(ワン・ビン)
『姉ちゃん、ホトホト様の蠱を使う』(大工原正樹)
『アンストッパブル』(トニー・スコット)
『イップ・マン 葉問』(ウィルソン・イップ)
『エッセンシャル・キリング』(イエジー・スコリモフスキー)
『面影』(万田邦敏)
『タンタンの冒険』(スティーブン・スピルバーグ)
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(瀬田なつき)
『デート&ナイト』(ショーン・レヴィ、DVD)
『仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦 MEGA MAX』(坂本浩一)
シャブロルの未公開作品を今年は多数見ることができたが、アメリカ土産のベースボール・バットによる一撃必殺で、『悪の華』をチョイス。*3
フレデリック・ワイズマンの映画も今年多数見ることができたが、あらためて、そのアフレコのような「セリフ」の鮮明さとユーモア、間合いの見事さを活かした編集に圧倒された。
ベロッキオは、イタリア映画祭で見逃していたものをようやく。雪の見事さと『チェンジリング』(Cイーストウッド、2008)との類似にビックリ。
『SUPER8 /スーパーエイト』の詳細はhttp://d.hatena.ne.jp/jennjenn/20130825。
ベン・アフレックは、DVDスルーの前作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)に続くスマッシュヒット。前作から続く水の主題が、海べの映像を経て、アイススケートリンクの氷に結晶したエンディングが印象深かった。
『アベックパンチ』は男女ペアの架空のプロ格闘技を題材にしながら、不正入国のパラグアイ人女性パートナーとの交流、強制送還による別離を描いて、強い印象を残した。*4
『ヒア・アフター』は今年を代表する一本。スクリーンで再上映すべきだ。
『ザ・ファイター』は俳優陣もよかったが、何よりもホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影に尽きる。『ぼくのエリ 200歳の少女』(トーマス・アルフレッドソン、2008)でスウェーデンの雪景色を魅力的に捉えたオランダ人撮影監督は、夏のマサチューセッツで、ステディカムを使って、ここ数年のアメリカ映画で最高の移動撮影を実現してみせた。その流麗かつ繊細なステディカムの使用法は「アントキノイノチノキ」とは真逆だ。
『孤独な惑星』は筒井武文版『トゥー・ラバーズ』だ。アパートの隣人の男女の三角関係、『白夜』への言及と、まったくの偶然によるその類似は、現代映画の核心部分を表している。必見。http://kodokuna-wakusei.com/top.html。*5
『ラブ・アゲイン』は、映画的な完成度は決して高くはないが、アメリカ映画ならではのラブコメディとホームドラマとが混淆した感動作。*6
パオロ・ベンヴェヌーティが日本でもやっと一般公開された。『プッチーニの愛人』は、樹の陰から湖に漕ぎ出すボートを捉えたパンが忘れられない。
『無言歌』は、砂漠での水の描写がないのが物足りなかったが、10代の頃のスピルバーグが、ジョン・フォードに直接受けたという、まず地平線の位置を決めろ、というアドバイスを、ワン・ビンが、ゴビ砂漠のロケ地で、忠実に守っていたのが印象深かった。
大工原正樹の本領は『風俗の穴場』(1996)のような多人数のエロチックコメディにあると思うが、『姉ちゃん、ホトホト様の蠱を使う』の木更津ロケは素晴らしい。シャッター商店街以外にも、地方都市には撮るべきものがいくらでもある。また、長宗我部陽子にはぜひ主演女優賞をあげたい。*7
『アンストッパブル』は、鉄道パニック映画としては外せない。2011年はこの列車暴走で始まった。
2011年は「宇宙最強」ドニー・イェンの主演作品が多数公開された年でもある。サモ・ハンとの共演作『イップ・マン 葉問』は、1950年代の香港をそれらしく描写したうえで、カンフー版『ロッキー4/炎の友情』としてまとめたその出来栄えは、ドニー・イェンの気品あふれる演技とともに評価したい。
『エッセンシャル・キリング』では、ヴィンセント・ギャロが氷の下の湖に落下する瞬間、思わず『早春』(1970)のプールの場面を思い出してしまった。
『面影』は『映画長話』(蓮實重彦、黒沢清、青山真二、リトルモア刊)の刊行記念トークショーで上映されたのを見たが、大阪の路地に椅子を置き、そこでベルギー人俳優を泣き伏す芝居をさせる、万田邦敏ならではの大胆演出に、出席者一同唖然としてしまった。*8
スピルバーグは『タンタンの冒険』で一区切り。
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の詳細は、http://d.hatena.ne.jp/jennjenn/20110124/p1
ショーン・レヴィは『リアル・スティール』が公開されたが、その本領はDVDスルーになった『デート&ナイト』(原題: Date Night)のような都会派ロマンチック犯罪アクションコメディにあるだろう。ティナ・フェイという魅力的なコメディエンヌとスティーブ・カレルの軽妙なコンビ、そして、マーク・ウォールバーグ、ジェームズ・フランコ、ミラ・クニスにレイ・リオッタ(ノン・クレジット!)という豪華脇役陣の出演作がスクリーンで見れないのは実に悔しい。
坂本浩一は、今年日本で最も充実した活動をした映画作家のひとりだろう。DVD『仮面ライダーW(ダブル) RETURNS 仮面ライダーエターナル』『仮面ライダーW(ダブル) RETURNS 仮面ライダーアクセル』そして『MOVIE大戦 MEGA MAX』と監督・アクション監督を務め、いずれも高い水準を示したからだ。『MOVIE大戦 MEGA MAX』で、注目すべきは、高校を舞台にした「フォーゼ」編で、リーゼントでツッパリファッションの主人公と、オウム返しのアクションでともにライダーに変身する女子高生「なでしこ」とのロマンスを描いた部分は、鈴木則文の学園アクションコメディ『コータローまかりとおる!』(1984)を思わせるほど、アクションのきれのよさと話のバカバカしさとのコントラストが絶妙に仕上がっている。多人数による乱闘シーンのアクション演出に関しては、坂本浩一は世界でもトップクラスの一員だ。女性のアクションに関しても、その脚線美を徹底して強調する蹴りの殺陣やカメラアングルへのこだわりはハンパではない。また、フォーゼとなでしこの合体攻撃の場面は、ほとんどミュージカル的な振り付けになっていて、2011年の日本映画の締めを飾るにふさわしい、超娯楽活劇になっている。
正月 キター!!
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*1:ホアキン・フェニックスがドアの陰に隠れる場面は、吉田眸『ドアの映画史―細部からの見方、技法のリテラシー』(春風社)が描いた、内開きのドアの映画的使用法の見事な具体例。なお、劇中に流れるヘンリー・マンシーニの音楽については、梅本洋一氏の記事を参照。http://www.nobodymag.com/heibon/?q=node/87。
*2:『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(ルバート・ワイアット)、『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』(ウェス・クレイヴン)、『ブンミおじさんの森』(アピチャッポン・ウィーラセタクン)、『風にそよぐ草』(アラン・レネ)、『少女たちの羅針盤』(長崎俊一)、『東京公園』(青山真治)、『奇跡』(是枝裕和)、『大鹿村騒動記』(阪本順治)、『八日目の蝉』(成島出)の9本を追加したならば、「XXX三十騎」に早変わりである。豊作だ。KGB48はさすがにムリだが。
*3:第二次大戦中の対独レジスタンスにまつわる名家の呪われた過去と現在という、フランス的なファミリーロマンスを描きながら、最後はアメリカ製の野球のバットの一振りでその決着をつけてしまうあたりは、作品中ワインよりもウィスキーを愛飲したシャブロルの反フランス的性格がよく表れていると思う。フラッシュバックなしに「過去の声」だけで戦時中の記憶を描いた、録音・音響設計の繊細な仕事ぶりは素晴らしい。
*4:作品の詳細については、阿部嘉昭氏のブログを参照。http://abecasio.blog108.fc2.com/blog-entry-970.html
*5:批評家・筒井武文の活動としては「映画の虚構性を問う ― 相米映画の撮影と編集」が傑作(木村建哉、中村秀之、藤井仁子編『甦る相米慎二』インスクリプト、所収)。相米映画の電話の主題系に沿って、その独特の空間構造の具体的な分析に徹することで、同書のなかで、主題論的批評を観念論的、疎外論的に歪めることなく、唯物論的(?)に継承/更新することに唯一成功している。
*6:作品の詳細については、南波克行氏のHPを参照。http://green.ap.teacup.com/nanbaincidents/1153.html
*7:長宗我部陽子、大工原正樹インタビュー参照。http://eigageijutsu.com/article/226747763.html
*8:それにしても、現在公開予定の「はやぶさ」便乗企画映画を、なぜ『宇宙貨物船レムナント6』『ありがとう』の万田邦敏に監督させないのだろうか(キャスティングは、仲村トオル、赤井英和、薬師丸ひろこ、豊川悦司、小池栄子、光石研、尾野真千子、篠田三郎、ヤン・デ・クレール!)。万田さんなら、必殺のカットバックつなぎで、『ありがとう』のゴルフボールを宇宙船に変えて、見事なチップ・イン・イーグルを宇宙空間で決めてくれるだろう。