2014年映画「ベストテン」×3+α

 
5日遅れになったが、2014年映画「ベストテン」は以下の3通り。
〇日本映画ベストテン
寄生獣』(山崎貴
銀の匙 Silver Spoon』(吉田恵輔
『Seventh Code』(黒沢清
『ニシノユキヒコの恋と冒険』(井口奈己
『小さいおうち』(山田洋次
『青天の霹靂』(劇団ひとり
『ほとりの朔子』(深田晃司
『イヌミチ』(万田邦敏
『坂本君は見た目だけが真面目』(大工原正樹)
超高速!参勤交代』(本木克英)
  
アメリカ映画ベストテン
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(アンソニー・ルッソジョー・ルッソ
ジャージー・ボーイズ』(クリント・イーストウッド
『セインツ 約束の果て』(デヴィッド・ロウリー)
ラッシュ/プライドと友情』(ロン・ハワード
グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン
エヴァの告白』(ジェームズ・グレイ
『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』(パトリック・ヒューズ)
とらわれて夏』(ジェイソン・ライトマン
ダラス・バイヤーズクラブ』(ジャン=マルク・ヴァレ
ゴーン・ガール』(デヴィッド・フィンチャー
 
〇東西洋画ベストテン(+5)
『ドラッグ・ウォー 毒戦』(ジョニー・トー
『罪の手ざわり』(ジャ・ジャンクー
ソウルガールズ』(ウェイン・ブレア)
『やさしい人』(ギヨーム・ブラック)
『祝宴!シェフ』(チェン・ユーシュン)
『天才スピヴェット』(ジャン=ピエール・ジュネ
『イーダ』(パヴェウ・パヴリコフスキ)
『トム・アット・ザ・ファーム』(グザヴィエ・ドラン
『ソニはご機嫌ななめ』(ホン・サンス
『収容病棟』(ワン・ビン
『めぐり逢わせのお弁当』(リテーシュ・バトラ
西遊記〜はじまりのはじまり〜』(チャウ・シンチー
『エレニの帰郷』(テオ・アンゲロプロス
ストックホルムでワルツを』(ペール・フリー)
『NO』(パブロ・ラライン
 
日本映画ベストテンでは、山崎貴山田洋次が上位に入るという異常態が起きてしまった。
寄生獣』の詳細はすでに書いたので*1、ここでは監督デビュー53年目にして成瀬巳喜男の風雨とトリュフォーエクリチュールとを融合させた『小さいおうち』に関して、多少の難点には目をつぶってでも評価したいと思ったことを明記しておく。それにしても、中堅&大ベテランの両Y監督の前作品との信じがたい落差は、旧来の「作家主義政策」の失効を告げるものだろうか。
次点の『銀の匙 Silver Spoon』は、なめショットでの縦構図で人畜入り混じったモブシーンをさばいた演出・撮影のコンビネーションが際立った見事な「ビスタサイズ映画」であり、こちらのY監督もまた前作を大きく上回っている。
時代劇枠として『超高速!参勤交代』をチョイス。往年の市川雷蔵森一生コンビの「殿さま道中もの」を連想させるこの作風は悪くない。
 
アメリカ(合衆国)映画のベストは『ウインター・ソルジャー』。ひたすら降下し続けるエレベータをはじめ、落下・降下・沈下とガラスの破砕にこだわったアクションと70年代政治サスペンス映画オマージュ(ロバート・レッドフォード!)が噛み合った類い稀なる成功例。上位三作は文句なしの「アメリカ映画」ということで選出した。

アメリカ(合衆国)映画以外の東西洋画ベストテン(+5本)は『ドラッグ・ウォー 毒戦』がベスト。本作と『ウインター・ソルジャー』とを並べてみると、現代のアクション映画の成否は、どれだけ道路封鎖して撮影できるかにかかっているかに思えてくる。
2014年は「ミュージシャン実録もの」の当たり年でもあった。オーストラリアのアボリジニ女性がベトナム戦争に「黒人ソウルグループ」として米軍の慰問をした実話『ソウルガールズ』は『ジャージー・ボーイズ』に次ぐ傑作。スウェーデンジャズ歌手モニカ・ゼタールンドを描いた『ストックホルムでワルツを』もよかった。どちらも「非アフリカ系」の女性歌手が「ソウルミュージック」「ジャズ」といった「アフリカ系音楽」の分野で活躍するというシニカルな共通点がある。
以上、各ベストテンは2014年劇場一般公開作品から選出したが、スクリーン初上映ということでは『有名になる方法教えます』(ジョージ・キューカー、1953)が文句なしのベストワンになる。
スタア誕生』のような、ハリウッドを舞台にしたテクニカラーシネマスコープサイズの「固有名の残酷劇」を演出する一方で、NYロケによるモノクロ・ビスタサイズの「固有名の狂騒劇」を同時期に撮ってしまうキューカーは、ある意味ジョン・フォード以上に恐るべき存在である。
また2014年に見た新作映画で最も先端的だったのは、東京フィルメックスで上映された篠崎誠『SHARING』。早い一般公開が望まれる。
一般公開された際には、「右枕」で入眠・覚醒を繰り返すヒロイン・山田キヌヲが体験する東北大震災にまつわる幻覚/予知夢の音響的性格と、右耳だけを露わにし髪の毛で左耳を隠した彼女の耳の左右非対称性との不思議な相関性に、ぜひ注意してほしい。

 
2014年「勝手に映画賞」は以下の通り。
 
女優賞;松たか子(『小さいおうち』『アナと雪の女王』)、深津絵里(『寄生獣』)
男優賞;染谷将太(『寄生獣』『ドライブイン蒲生』)、伊藤英明(『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』)
新人賞;上白石萌音(『舞妓はレディ』)、工藤阿須賀(『百瀬、こっちを向いて』)
照明賞;渡邉孝一(『小さいおうち』)
美術賞;杉本亮(『青天の霹靂』)
衣装賞;宮本まさ江(『百円の恋』)
編集賞;穗垣順之助(『寄生獣』『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』)
VFX賞;山崎貴・渋谷紀世子(『寄生獣』)
脚本賞古沢良太山崎貴(『寄生獣』)
録音賞;百々保之(『SHARING』)
撮影賞;志田貴之(『銀の匙 Silver Spoon』)
監督賞;吉田恵輔(『銀の匙 Silver Spoon』)
出版賞;『トリュフォー最後のインタビュー』(蓮實重彦山田宏一平凡社
 
以上、部門別に「勝手に映画賞」を選出しましたが、これはあくまでも当方の勝手な判断によるものですので、受賞された方もされなかった方も、どうかいっさい気になさらないで下さい。
ただし『トリュフォー最後のインタビュー』の出版賞にかぎっては、英語版の出版を促したいがための30年遅れの非常処置です。
これは絶対スピルバーグに読んでほしい。
 
2015年はよい年でありますように。

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